彼と彼女の、最大の不具合



小さく息を吐く。右京くんにそれとなく聞いてみたこともあるけど、「悪いけど覚えてない」の一点張りで、それ以上は何も分からなかった。だからといって気まずいわけじゃない。むしろ、前より少しだけ距離が近くなった気すらする。でも——だからこそ、余計に気になる。


「(……なに、言われたんだろ)」


無意識に視線がまた右京くんに向く。その横顔は相変わらず真剣で、仕事モードそのもの。


「(……ずるい)」


ぽつりと、心の中で呟いたそのときだった。


「香坂」


名前を呼ばれて、びくっと肩が跳ねる。


「な、なに?」

「資料、ちゃんと見とけよ。あとで詰めるから」


それだけ言って、また視線を落とす右京くん。


「……うん」


小さく頷きながら、胸の奥に広がる妙な感覚をごまかすように資料に目を戻す。
でも、文字は全然頭に入ってこない。
出張、泊まり込み、右京くん、思い出せないあの日のこと——いろんなものがぐちゃぐちゃに絡まって、うまく整理できない。


「(……新商品もそうだけど、右京くんともうまくいったらいいなーなんて)」


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