彼と彼女の、最大の不具合
ぐちゃぐちゃの感情を無理やり押し込めるみたいに、私はふーっと大きく息を吐いて、なんとか冷静さを取り戻そうとする。頬の熱が少しずつ引いていくのを感じながら、ゆっくりと言葉を選ぶ。
「…なんで、あんなことしたの?」
「うーん」
本当に考えているのかいないのか分からないような間を置いたあと、急に顔をこちらへぐっと近づけてきた。
「香坂のこと、ちゃんと見張っとかないと、と思って」
「……!?」
意味がわからないのに、距離だけが異様に近くて、視界いっぱいに右京くんの顔が入り込んでくる。至近距離でふっと笑うその表情はいつもの無表情とも違っていて、ほんの少しだけ柔らかくて、それが逆にずるい。
スーツのシャツの隙間から見える鎖骨にまで視線が落ちてしまいそうになって、慌てて目を逸らすのに、どこからか漂ってくる柔軟剤みたいな匂いがやけにはっきりしていて、それだけで頭がくらっとする。
「(きゅ、急な色気!というか、見張っとかないとってなに!?)」
見張るって何。私はいつから監視対象になったの!
なのに心臓だけが勝手に騒いでるのが悔しい。こんな爆弾みたいなことをさらっと言っておきながら、右京くんはもう興味を失ったみたいな顔に戻っていて、その温度差にさらに混乱する。
「香坂、行くよ」
そう言って、右京くんは歩き出してしまう。
「(…っ、反則なんだってば!バカ~!)」
私はその背中を追いかけるしかなくて、まだ落ち着かない胸の鼓動を抱えたまま、さっきの言葉の意味を何度も反芻してしまっていた。