彼と彼女の、最大の不具合
「ただ、この残り方だと、朝使いは厳しいかもしれないですね」
その一言で、議論の方向が変わる。“夜用に寄せるか、それとも軽くするか”。選択肢がテーブルの上に並ぶ。
「ターゲットは乾燥肌なので、ある程度の重さは必要です」
山口の言葉は揺るがない。右京くんは一瞬だけ黙り込んで、それから静かに息を吐いた。
「もちろん保湿は重要です。ただ――」
指先で感触を確かめながら続ける。
「この残り方だと、“効いてる”より先に“重い”が来る気がします」
その言葉に、思わず頷きそうになる。もう一度、自分の手の甲をなぞる。確かに、効果を感じる前に使い心地で引っかかる可能性がある。
「この重さ、どこまで落とせる?」
気づけば、私の口が先に動いていた。その瞬間、空気がほんの少し変わるのを感じる。山口が一拍だけ黙り、視線をサンプルに落とす。
「落とす、というと」
「使用感の話。油分の残り方と、浸透後の膜感」
右京くんが補足する。山口は小さく息を吐いた。
「……現状の設計だと、保湿の持続とトレードオフになります」
やっぱり、そうなる。分かっていた答え。でも、それでも簡単には引けない。
「ただ、完全に保湿を落とす必要はないと思っています。油剤の種類と粒径を調整すれば、体感はかなり変えられます」
その言い方に、わずかな可能性を感じる。右京くんがすぐに反応する。
「つまり、ベースは維持したまま体感だけ軽くする方向?」
「はい。その方向なら、次の試作で二段階は下げられます」
二段階…。二段階も…?