彼と彼女の、最大の不具合



「ただ、この残り方だと、朝使いは厳しいかもしれないですね」


その一言で、議論の方向が変わる。“夜用に寄せるか、それとも軽くするか”。選択肢がテーブルの上に並ぶ。


「ターゲットは乾燥肌なので、ある程度の重さは必要です」


山口の言葉は揺るがない。右京くんは一瞬だけ黙り込んで、それから静かに息を吐いた。


「もちろん保湿は重要です。ただ――」


指先で感触を確かめながら続ける。


「この残り方だと、“効いてる”より先に“重い”が来る気がします」


その言葉に、思わず頷きそうになる。もう一度、自分の手の甲をなぞる。確かに、効果を感じる前に使い心地で引っかかる可能性がある。


「この重さ、どこまで落とせる?」


気づけば、私の口が先に動いていた。その瞬間、空気がほんの少し変わるのを感じる。山口が一拍だけ黙り、視線をサンプルに落とす。


「落とす、というと」

「使用感の話。油分の残り方と、浸透後の膜感」


右京くんが補足する。山口は小さく息を吐いた。


「……現状の設計だと、保湿の持続とトレードオフになります」


やっぱり、そうなる。分かっていた答え。でも、それでも簡単には引けない。


「ただ、完全に保湿を落とす必要はないと思っています。油剤の種類と粒径を調整すれば、体感はかなり変えられます」


その言い方に、わずかな可能性を感じる。右京くんがすぐに反応する。


「つまり、ベースは維持したまま体感だけ軽くする方向?」

「はい。その方向なら、次の試作で二段階は下げられます」


二段階…。二段階も…?


< 84 / 140 >

この作品をシェア

pagetop