彼と彼女の、最大の不具合



「それ、かなり設計変えるよね。保湿の持続時間、絶対落ちる」


気づけば、また口に出していた。右京くんがちらりとこちらを見る。


「落ちる前提で、使用感を優先するって話だろ」

「でも落ちる前提で出していいのかって話だよ。コラボなんだよね?どっちのブランドの正解で行くか、まだ決まってない段階でしょ」


言い切った瞬間、空気が変わる。ただの技術議論だった場に、外向きの視点が入り込む。


「正解じゃなくて、使われるかどうかの話をしてる」

「だから使われる品質を下げるのは違うって言ってるの!」


声が重なる。静寂が落ちる。ほんの数秒の沈黙なのに、やけに長く感じる。


「品質って言葉で全部まとめるなよ。使い続けられるかどうかも品質だろ」

「(……な、なんでもっと優しく言ってくれないの!?)」


右京くんはいつもそうだ!正しいことを、容赦なくまっすぐ言う。分かっているのに、受け止めきれない自分がいる。しかも今日は、それだけじゃない。昨日のことが、ずっと引っかかっている。


「(昨日、あんなことしておいて…!)」


手を握られた感触。あの距離。あの言葉。その全部がまだ消えていないのに、当の本人はいつも通りで。

ムムムと口をへの字にして右京くんを見つめると、「なんだよ、その顔」と怪訝な顔をされる。昨日は、こんなんじゃなかったのに!平気なフリして、私の手握ってきたくせに!右京くんのせいで、こっちは昨日まともに寝れてないんだから!


「香坂さん?顔赤いけど、大丈夫ですか?」

「え!?あ、うん、大丈夫!」


慌てて取り繕うけど、絶対バレてる。恥ずかしい。他社の人の前でこんなやり取り見せるなんて。


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