彼と彼女の、最大の不具合
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「くぅ〜っ!」
仕事終わりのビールが喉を通った瞬間、思わず声が漏れた。冷えた液体が一気に体の奥へと流れ込んでいって、張りつめていた一日の緊張がじわじわとほどけていくのが分かる。ああ、生き返る、というのはこういうことを言うんだろうなと、少し大げさなくらいに思ってしまう。
勢いよくジョッキをテーブルに置くと、向かいに座っていた山口が小さく吹き出した。
「相変わらず豪快っすね」
「うるさいな〜。これくらいさせて」
軽く言い返しながらも、心の奥ではじんわりとした嬉しさが広がっていた。
大学を卒業してからというもの、山口とは一切連絡を取っていなかった。それなのに、こうして突然飲みに誘ってくれたことが私は思っていた以上に嬉しいらしい。
「山口はずっとルミエールにいるの?」
「はい。今のとこは他に行きたいとは思わないかな」
迷いのない返事に、ああこの人らしいなと素直に思う。
「香坂さんも?」
「うん。私も」
即答しながら、胸の奥にふっと別の名前が浮かぶ。
なにより、右京くんがいるし。
彼を毎日見るために仕事に行っていると言っても、たぶん過言じゃない。もちろん研究が好きだし、ルナリスで働くことは昔からの夢だった。でも現実は意外と単純で、好きな人がそこにいるというだけで、理由としては十分すぎるくらい強い。
「それにしても、右京さんって男前っすよね〜」
山口が串をかじりながら何気なく言った瞬間、思考が一気に引き戻される。
「(えぇ〜!?わかる!?山口わかってくれる!?)」
心の中で全力で頷く。そう、そうなのだ。右京くんはどう見ても男前だ!整っているとかそういう表面的な話じゃなくて、余計なものが削ぎ落とされたみたいな雰囲気とか、必要なことだけを選んでいる感じとか、そういう全部が積み重なって“かっこいい”になっている。私は思わず大きく頷いていた。