彼と彼女の、最大の不具合
「かっこいいよね。うちの会社でアイドル扱いされてるから」
何気なくそう言うと、山口が目を丸くした。
「そうなんすか?」
「うん。仕事もできるし、普通に目の保養なんだって。本人はあんまりそういうの気にしてないけど」
言いながら、頭の中には自然と右京くんの姿が浮かんでくる。
ラボでサンプルを見ているときの横顔。真剣に数値を追っているときの目。必要なことだけを短く切っていく声。そして、たまに何の前触れもなく距離が近くなる瞬間。
それから、個室居酒屋でのふたりだけの時間まで不意に思い出してしまって、心臓がひとつ変な動きをする。
私には、わりと絡んでくれてる…?
そう気づいてしまった瞬間、グラスを持つ手が一瞬だけ止まった。
「こっち来ても、あんまり女子と話してないっすね」
山口の言葉に、私は曖昧に頷きながらも、視線だけは遠くをさまよう。そのときだった。
「好きなんすか?右京さんのこと」
「ぶっ——!?」
思わずおしぼりを口元に押し当ててむせると、山口が楽しそうにこちらを見ていた。
「な、なに言ってんの急に!」
「いや、分かりやすいっすよ」
「(もしかして、みんなにバレてたりするのかな!?)」
胸の中で警報が鳴る。
いやいやいや、そんなはずない。私としては、むしろかなり隠せている側のはずだ。だって仕事中なんて、顔を合わせればすぐ喧嘩になるし、むしろそのせいで仲悪い認定されてる可能性すらある。カモフラージュとしては完璧なはず!
「右京さんは、香坂さんのことどう思ってるんすかね?」
「(そんなの、私が一番知りたいよ…!)」
喉まで出かかった本音を必死で飲み込む。顔には出さないようにしているつもりなのに、内心は完全に波立っていて、落ち着くどころか余計に意識してしまう。
「さあ?どうでもいいけどね」
わざと軽く言ってみるけれど、その言葉ほど自分に嘘をついているものはない。どうでもいいわけがない。むしろ一番気にしているのはそこなのに、山口の前だと妙に強がってしまう。