彼と彼女の、最大の不具合
外に出ると、店の熱気から解放された空気がひんやりと頬に触れて、体の中に残っていたアルコールがじんわりと広がりながら火照りを帯びていくのがわかった。
さっきまで賑やかだった店内の喧騒が嘘みたいに遠のいて、夜の風がやけに心地よくて、思わず深く息を吸い込む。
「じゃ、明日からも頑張りましょうね」
山口はいつもの調子でそう言いながら、少しだけ照れくさそうに、それでもどこか懐かしい仕草で拳をこちらに突き出してくる。
「山口、まだこれやってんの?」
思わず笑いながらそう返すと、「いや、俺じゃなくて香坂さんですよね、やってたの」なんて言い返されて、図星を突かれたみたいに言葉に詰まる。
ほんのり赤くなった山口の顔が街灯に照らされて、昔と何も変わっていないようで、それが少しだけ嬉しくて、胸の奥がじんわりと温かくなる。私も自然と笑って、同じように拳を突き出した。
「今日、ありがとね。明日からもよろしく!」
少しだけ素直な気持ちを乗せてそう言うと、「うっす」と短く返ってくるその声が、妙に頼もしく聞こえる。
コツン、と軽く拳同士が触れ合う。その小さな衝撃に、大学時代の記憶が一気に蘇ってきて、何度も繰り返してきたこのやりとりを、またしていることが不思議で、でもどこか安心できて、思わず目を細めた。
「ひとりで帰れます?」
「すぐそこだし、人多いし大丈夫!」
軽く手を振りながら答えて、そのままホテルの方向へと歩き出す。
背中に感じる視線をなんとなく意識しながら、それでも振り返らずに前を向いて歩く。夜の街はまだ人通りが多くて、ネオンの光が滲むように広がっていて、その中をすり抜けるように進んでいく。
「香坂さん!」
後ろから呼ばれて、思わず足を止めそうになる。
「また飲みましょうーねー!今度は、右京さんもいれて!」
山口の大きな声が夜の空気を震わせるみたいに届いてきて、その無邪気さに、思わず吹き出してしまう。
振り返らないまま、でもちゃんと聞こえているよと伝えたくて、軽く手を上げた。