恋から逃げるのには理由(わけ)があって
「太陽くん、やだ、嘘でしょ、ねえ」
彼の体を抱きとめようとして、手が滑った。
赤い。
手のひらが赤く染まる。
こんな色を、私は知らない。
知らないはずなのに、目の前にある。
「救急車……誰か、救急車!」
叫んだ声は、裂けていた。
誰かが電話している。
誰かが男を取り押さえている。
足音。
悲鳴。
雨上がりの匂い。
鉄みたいな匂い。
太陽は私の腕の中で、浅く息をしていた。
「向日葵」
「しゃべらないで。お願い、しゃべらないで」
「怪我、ない?」
こんな時まで。
私は泣きながら首を振った。
「ない。ないよ。太陽くんが庇ったから。だから、もう大丈夫だから。ねえ、救急車来るから。絶対大丈夫だから」
大丈夫。
また、その言葉を言った。
何の力もない言葉を。
太陽の指が、私の手に触れた。
弱い。
あんなにあたたかくて、いつも私を包んでくれた手が、信じられないくらい弱い。
「よかった」
「よくない!」
私は叫んだ。
「全然よくない! 何で、何で庇ったの。逃げてよ。太陽くんは、逃げてよ!」
太陽は、かすかに笑った。
「無理だ」
その声が、あまりにも太陽らしくて、胸が壊れそうになった。
「向日葵を、守りたかった」
「守らなくていい! 私なんか守らなくていいから、生きてよ!」
その言葉を叫んだ瞬間、病室の白い天井が頭の中で重なった。
彼の体を抱きとめようとして、手が滑った。
赤い。
手のひらが赤く染まる。
こんな色を、私は知らない。
知らないはずなのに、目の前にある。
「救急車……誰か、救急車!」
叫んだ声は、裂けていた。
誰かが電話している。
誰かが男を取り押さえている。
足音。
悲鳴。
雨上がりの匂い。
鉄みたいな匂い。
太陽は私の腕の中で、浅く息をしていた。
「向日葵」
「しゃべらないで。お願い、しゃべらないで」
「怪我、ない?」
こんな時まで。
私は泣きながら首を振った。
「ない。ないよ。太陽くんが庇ったから。だから、もう大丈夫だから。ねえ、救急車来るから。絶対大丈夫だから」
大丈夫。
また、その言葉を言った。
何の力もない言葉を。
太陽の指が、私の手に触れた。
弱い。
あんなにあたたかくて、いつも私を包んでくれた手が、信じられないくらい弱い。
「よかった」
「よくない!」
私は叫んだ。
「全然よくない! 何で、何で庇ったの。逃げてよ。太陽くんは、逃げてよ!」
太陽は、かすかに笑った。
「無理だ」
その声が、あまりにも太陽らしくて、胸が壊れそうになった。
「向日葵を、守りたかった」
「守らなくていい! 私なんか守らなくていいから、生きてよ!」
その言葉を叫んだ瞬間、病室の白い天井が頭の中で重なった。