恋から逃げるのには理由(わけ)があって
翌朝、私は会社へ向かった。

寝不足の顔をファンデーションで塗り固め、鏡の前で「これは社会人の鎧」と唱えた。実際には、目の下の影を完全に消すには至らなかった。鎧、やや防御力不足。

総務部のフロアは、いつも通りだった。

電話が鳴り、コピー機が紙詰まりという名の反乱を起こし、誰かが「会議室Bって誰か押さえてます?」と聞き、私はエクセルのセル幅に人生の細やかな怒りをぶつけた。

普通。
とても普通。

この普通の中にいれば、大空太陽という巨大な非日常も、少しは遠ざかる気がした。

そう思ったのが甘かった。
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