恋から逃げるのには理由(わけ)があって

第18話 絵里奈の爆弾発言

太陽からの連絡は、来なかった。

その夜も。
次の日も。
その次の日も。

スマホは、ちゃんと生きていた。
会社のグループチャットは鳴るし、母からは「実家の近所で猫が子猫を産んだ」という平和すぎる写真が送られてくるし、通販サイトからは「あなたにおすすめの収納グッズ」がやたら届く。

なのに、大空太陽の名前だけが出てこない。

いいことだ。

とても、いいことだ。

私は自分で言ったのだ。
近づかないでほしい。
優しくしないでほしい。
名前を呼ばないで、とまで言った。

だから太陽が距離を取っているのは正しい。
私が望んだ未来そのものだ。
世界的俳優が常識を学び、成人男性として適切な距離感を身につけた。人類の進歩である。拍手していい。

なのに。

朝、スマホを見る。
昼休み、スマホを見る。
仕事帰り、改札前でスマホを見る。
夜、冷蔵庫を開ける前にも見る。

来ていない。

それだけを確認して、私は毎回なぜか胸の奥を小さくへこませていた。

「……何を期待してるんだ、私は」

冷蔵庫の前でつぶやいた声が、やけに情けない。

中には牛乳、卵、納豆、苦めのカラメルのプリン。
どれも私の平凡な生活を支える精鋭たちである。

太陽の気配が薄くなっていく。

いいことだ。
本当に、いいことなのに。

気持ちだけ、置いていかれたみたいに落ち着かなかった。
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