恋から逃げるのには理由(わけ)があって
初めてだった。

二度目の人生で、私は初めて、一人で抱え込むのをやめた。

けれど、安堵するにはまだ早かった。

私は震える手で、さっき車が消えた角を指さした。

「私の顔が青くなったって言ったよね?」

「うん」

「あの時は、太陽くんを殺した男は知らない男だった。名前も知らなかった。どこの人かもわからなかった」

太陽の目が細くなる。

「でも、今わかった」

喉がからからだった。
それでも言わなきゃいけない。

「さっき車を運転していた男が、犯人だった」

夜の路地が、急に静かになった。

太陽は振り返った。
車が消えた角を見る。
そして、ゆっくり私へ視線を戻した。

その顔は、世界的俳優の顔でも、王子様の顔でもなかった。
何かを理解した男の顔だった。

「さっき運転していた男って」

太陽の声が低く落ちる。

「朝比奈さんのマネージャーだ」

その名前が、私たちを初めて、同じ運命の入口に立たせた。
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