恋から逃げるのには理由(わけ)があって

第20話 犯人の正体

「朝比奈さんのマネージャーだ」

太陽の声が、夜の路地に低く落ちた。

その瞬間、私の体温がまた一段下がった気がした。

朝比奈絵里奈のマネージャー。

さっき運転席にいた男。
一度目の人生で、刃物を持って私へ向かってきた男。
太陽を殺した男。

その三つが、ひとつの顔に重なる。

今まで、あの男はただの「知らない男」だった。
悪意の形をしているのに、名前も所属も、どこから来たのかもわからない影だった。

でも今、その影に輪郭がついた。

朝比奈絵里奈のマネージャー。

「……名前は?」

私の声は、自分でも驚くほどかすれていた。

太陽は、車が消えた角を見つめたまま答えた。

「橘蓮司。朝比奈さんの個人マネージャー。ここ半年くらい、映画のプロモーション関係でよく顔を合わせてる」

橘蓮司。

名前を聞いた瞬間、ぞわりと背筋が震えた。

名前。
名前がある。
あの夜、太陽から命を奪った男に、ちゃんと名前がある。

当たり前のことなのに、それがひどく気持ち悪かった。

「勘違いじゃない」

私は震える唇で言った。

「顔、忘れてない。忘れられるわけない。あの目も、口元も……あの男だった」

太陽は私を見た。

「向日葵」

名前を呼ばれた瞬間、いつもなら胸が揺れる。
でも今は違った。
その声にすがりたいほど、怖かった。
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