恋から逃げるのには理由(わけ)があって
「太陽くん」
「うん」
「逃げたら、だめなのかな」
声に出した瞬間、自分の中の弱さが見えた。
「私が遠くへ行けば、太陽くんは襲われないかもしれない。私と関わらなければ、あの男が動く理由もなくなるかもしれない」
太陽の指が、わずかに肩の上で止まった。
「向日葵」
「だって、一度目は私を狙ってた。太陽くんは私を庇って死んだ。だったら、私が太陽くんの近くにいなければ……」
「それは違う」
はっきりした声だった。
私は顔を上げた。
太陽は、まっすぐ私を見ていた。
「橘が何を考えているのか、まだ全然わからない。でも、向日葵だけが原因だとは限らない」
「でも」
「俺は朝比奈さんの仕事相手だ。橘はその近くにいる。もし彼の中に俺への執着や敵意があるなら、向日葵が逃げても、別の形で動く可能性がある」
言葉が喉に引っかかった。
そうだ。
一度目の人生で男は言った。
『大空太陽は、あの方のものだろ?』
あの方。
「……あの男、一度目で言ってた」
「何を?」
「大空太陽は、あの方のものだろ、って」
太陽の顔が、明らかに変わった。
「あの方」
「それから、太陽の奥さんだよね、って私に言って、そのあと……なんであんたなんだよ、って」
言いながら、手が震えた。
「私があなたの妻だったから。秘密にしてたけど、たぶん何かのきっかけで知られて、それで……」
「嫉妬、か」
太陽の声は低かった。
嫉妬。
その単語が、この夜の空気にやけに生々しく響いた。
わからない。
でも、あの男は私を消そうとした。
そして太陽を殺した。
「太陽くん」
「うん」
「すぐ逮捕できないなら、調べるしかないよね。あの男のことを」
言った瞬間、自分の声が少しだけ変わったことに気づいた。
逃げ腰の声ではなかった。
太陽も、それに気づいたように目を細めた。
「そうだな」
「橘蓮司が何をしているのか。太陽くんにどう関わっているのか。一度目で私たちの結婚をどうやって知ったのか。あの夜、どうしてあの路地にいたのか」
言葉にしていくうちに、恐怖の中に、細い道筋が見え始めた。
「今回、私たちは結婚してない。だから一度目と全部同じにはならないはず。でも、太陽くんと朝比奈さんのプロモーションは進んでる。橘蓮司は近くにいる」
「未来が同じ方向へ進んでいる可能性がある」
「うん。でも、犯人の顔を知らなかった一度目とは違う」
太陽の視線が、強くなった。
私は自分の胸に手を当てた。
心臓はまだ速い。
でも、ただ怯えているだけの音ではなかった。
「うん」
「逃げたら、だめなのかな」
声に出した瞬間、自分の中の弱さが見えた。
「私が遠くへ行けば、太陽くんは襲われないかもしれない。私と関わらなければ、あの男が動く理由もなくなるかもしれない」
太陽の指が、わずかに肩の上で止まった。
「向日葵」
「だって、一度目は私を狙ってた。太陽くんは私を庇って死んだ。だったら、私が太陽くんの近くにいなければ……」
「それは違う」
はっきりした声だった。
私は顔を上げた。
太陽は、まっすぐ私を見ていた。
「橘が何を考えているのか、まだ全然わからない。でも、向日葵だけが原因だとは限らない」
「でも」
「俺は朝比奈さんの仕事相手だ。橘はその近くにいる。もし彼の中に俺への執着や敵意があるなら、向日葵が逃げても、別の形で動く可能性がある」
言葉が喉に引っかかった。
そうだ。
一度目の人生で男は言った。
『大空太陽は、あの方のものだろ?』
あの方。
「……あの男、一度目で言ってた」
「何を?」
「大空太陽は、あの方のものだろ、って」
太陽の顔が、明らかに変わった。
「あの方」
「それから、太陽の奥さんだよね、って私に言って、そのあと……なんであんたなんだよ、って」
言いながら、手が震えた。
「私があなたの妻だったから。秘密にしてたけど、たぶん何かのきっかけで知られて、それで……」
「嫉妬、か」
太陽の声は低かった。
嫉妬。
その単語が、この夜の空気にやけに生々しく響いた。
わからない。
でも、あの男は私を消そうとした。
そして太陽を殺した。
「太陽くん」
「うん」
「すぐ逮捕できないなら、調べるしかないよね。あの男のことを」
言った瞬間、自分の声が少しだけ変わったことに気づいた。
逃げ腰の声ではなかった。
太陽も、それに気づいたように目を細めた。
「そうだな」
「橘蓮司が何をしているのか。太陽くんにどう関わっているのか。一度目で私たちの結婚をどうやって知ったのか。あの夜、どうしてあの路地にいたのか」
言葉にしていくうちに、恐怖の中に、細い道筋が見え始めた。
「今回、私たちは結婚してない。だから一度目と全部同じにはならないはず。でも、太陽くんと朝比奈さんのプロモーションは進んでる。橘蓮司は近くにいる」
「未来が同じ方向へ進んでいる可能性がある」
「うん。でも、犯人の顔を知らなかった一度目とは違う」
太陽の視線が、強くなった。
私は自分の胸に手を当てた。
心臓はまだ速い。
でも、ただ怯えているだけの音ではなかった。