恋から逃げるのには理由(わけ)があって
全部が遠くなって、太陽の声だけが残った。

逃げる理由は、確かにあった。
あまりにも大きくて、重くて、痛い理由だった。

でも、逃げ続けるだけでは、私はこの人の笑顔も、自分の気持ちも、全部失うのだとわかった。

「……私」

声が震えた。

太陽は何も言わず、待ってくれた。

「私、太陽くんが怖かった」

「うん」

「死んじゃう太陽くんが怖かった。私を庇っていなくなるあなたが怖かった。だから、生きてるあなたを見ても、ずっと死んだ時の顔を思い出してた」

涙でうまく息ができない。

「でも、それだけじゃなかった」

私は太陽を見た。

今度は、逃げずに。

「あなたが優しいと嬉しかった。雑炊を作ってくれた時も、誕生日に0時ぴったりでLINEをくれた時も、荷物を持ってくれた時も、川沿いで上着をかけてくれた時も。本当は、全部嬉しかった」

言ってしまえば、胸が軽くなるどころか、もっと熱くなった。

「朝比奈さんと並んでるのを見て、嫌だった。連絡が来なくなって、寂しかった。太陽くんが私から離れようとしてるのを、正しいって思うのに、苦しかった」

太陽の目が、揺れる。

「向日葵」

「好き」

その一言は、思ったより小さく出た。
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