恋から逃げるのには理由(わけ)があって
「……本当に?」
ようやく出た彼の声は、信じられないくらい小さかった。
「本当に」
「取り消さない?」
「取り消さない」
「向日葵」
「はい」
「俺、今、すごく触れたい」
こんな時まで許可制。
私は泣きながら笑ってしまった。
「抱きしめる、なら」
「うん」
「強すぎないように」
「わかった」
次の瞬間、太陽の腕が私を包んだ。
強くない。
でも、確かに離さない抱きしめ方だった。
私は彼の肩に額を預けた。
黒いスーツの布に、スタジオの照明の匂いと、彼自身のあたたかい匂いが残っている。
生きている。
今度は、血の匂いじゃない。
冷えていく手の感触でもない。
ちゃんと生きている太陽の体温が、私の腕の中にある。
「向日葵」
耳元で、彼が名前を呼んだ。
もう、その声から逃げたいとは思わなかった。
「俺も好きだ。ずっと好きだった。これからも好きだ」
「知ってます」
「即答」
「人生二周目だから」
太陽の胸の奥で、低く笑う音がした。
その音を聞いたら、心が少し軽くなった。
言えた。
好きだと、言えた。
逃げるために閉じていた扉が、内側から少し開いた気がした。
「でも、条件があります」
「うん」
私は彼の腕の中で顔を上げた。
「死なないこと」
太陽は真剣にうなずいた。
「約束する」
「私を置いて前に出ないこと」
「約束する」
「一人で格好つけないこと」
「……努力する」
「そこは約束して」
「約束する」
私は小さく息を吐いた。
「私も約束する。一人で抱えない。怖い時は怖いって言う。逃げたくなったら、逃げたいって言う。でも、あなたの隣から勝手に消えない」
太陽の目が、静かに潤んだ。
「隣にいてくれる?」
「います」
私は、今度ははっきり答えた。
「王子様の後ろじゃなくて、隣に」
太陽は、今まで見た中で一番やわらかく笑った。
太陽の隣に立つ。
太陽を死なせない。
橘蓮司から逃げず、未来を書き換える。
怖い。
ものすごく怖い。
それでも、今は一人じゃない。
私はもう逃げるだけの私ではない。
王子様に迎えに来てもらう物語ではなく、王子様と一緒に敵へ向かう物語が、ようやくここから始まる。
ようやく出た彼の声は、信じられないくらい小さかった。
「本当に」
「取り消さない?」
「取り消さない」
「向日葵」
「はい」
「俺、今、すごく触れたい」
こんな時まで許可制。
私は泣きながら笑ってしまった。
「抱きしめる、なら」
「うん」
「強すぎないように」
「わかった」
次の瞬間、太陽の腕が私を包んだ。
強くない。
でも、確かに離さない抱きしめ方だった。
私は彼の肩に額を預けた。
黒いスーツの布に、スタジオの照明の匂いと、彼自身のあたたかい匂いが残っている。
生きている。
今度は、血の匂いじゃない。
冷えていく手の感触でもない。
ちゃんと生きている太陽の体温が、私の腕の中にある。
「向日葵」
耳元で、彼が名前を呼んだ。
もう、その声から逃げたいとは思わなかった。
「俺も好きだ。ずっと好きだった。これからも好きだ」
「知ってます」
「即答」
「人生二周目だから」
太陽の胸の奥で、低く笑う音がした。
その音を聞いたら、心が少し軽くなった。
言えた。
好きだと、言えた。
逃げるために閉じていた扉が、内側から少し開いた気がした。
「でも、条件があります」
「うん」
私は彼の腕の中で顔を上げた。
「死なないこと」
太陽は真剣にうなずいた。
「約束する」
「私を置いて前に出ないこと」
「約束する」
「一人で格好つけないこと」
「……努力する」
「そこは約束して」
「約束する」
私は小さく息を吐いた。
「私も約束する。一人で抱えない。怖い時は怖いって言う。逃げたくなったら、逃げたいって言う。でも、あなたの隣から勝手に消えない」
太陽の目が、静かに潤んだ。
「隣にいてくれる?」
「います」
私は、今度ははっきり答えた。
「王子様の後ろじゃなくて、隣に」
太陽は、今まで見た中で一番やわらかく笑った。
太陽の隣に立つ。
太陽を死なせない。
橘蓮司から逃げず、未来を書き換える。
怖い。
ものすごく怖い。
それでも、今は一人じゃない。
私はもう逃げるだけの私ではない。
王子様に迎えに来てもらう物語ではなく、王子様と一緒に敵へ向かう物語が、ようやくここから始まる。