恋から逃げるのには理由(わけ)があって

第22話 撃退

王子様と一緒に敵へ向かう物語が、ようやくここから始まる。

……と、胸の中でそれっぽく決意した直後、私のお腹が鳴った。

ぐう。

夜の路地。
一度目の人生で太陽が死んだ場所。
犯人の顔を知り、私はようやく太陽に全部打ち明け、抱きしめられて、好きだと言った。

そんな大事な場面で、腹の虫が自己主張した。

空気を読んでほしい。
いや、正確には私はスーパーへ卵と牛乳を買いに行く途中だった。人生を左右する告白をしていても、人間の胃袋は現実を忘れない。非常に堅実である。

太陽の腕の中で固まった私に、彼が一瞬だけ目を丸くした。

それから、ふっと笑った。

「まず、何か食べよう」

「今の、聞こえました?」

「聞こえた」

「聞こえなかったことにしてください」

「無理だ。すごく向日葵らしかった」

「告白直後の女にその評価はどうなんですか」

そう言うと、太陽はやわらかく笑った。

その笑顔を見た瞬間、胸の奥に残っていた冷たい震えが、少しだけほどけた気がした。

怖い場所で、怖い話をした。
けれど、太陽は生きていて、私の隣で笑っている。

それだけで、世界は少し変わる。
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