恋から逃げるのには理由(わけ)があって
――翌日。

太陽の事務所の会議室は、妙に空気が重かった。

長いテーブル。
壁際の観葉植物。
正面には映画制作側の責任者、宣伝会社の担当者、太陽の事務所の人たち。
そして、朝比奈絵里奈と橘蓮司。

私は本来、こんな場所にいる人間ではない。

普通の会社員である。
会議といえば、備品発注と会議室予約の重複をどうするか程度の議題が専門だ。
芸能界の重役会議に座るなど、場違いにもほどがある。

でも、太陽は隣にいてくれた。
新庄は斜め前で、分厚い資料を整えている。

朝比奈絵里奈は、最初から完璧だった。

淡いベージュのワンピース。
控えめなメイク。
困惑したようなまなざし。

「突然お呼び出しいただいて、何のお話でしょうか」

透明な声。
けれど、目の奥には警戒があった。

橘蓮司は無表情だった。
その顔を見るだけで、体のどこかが凍りそうになる。

でも私は、椅子から立ち上がらなかった。
逃げなかった。
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