恋から逃げるのには理由(わけ)があって
新庄が口を開いた。

「朝比奈さんのアンバサダー就任に関して、不正な働きかけがあったことを確認しました」

会議室の空気が一気に変わった。

橘が眉を動かす。

「何のことですか」

「橘さん。宣伝会社の担当者へ送ったメッセージ、金銭の受け渡し記録、制作委員会メンバーへの脅迫材料。すべてこちらにあります」

新庄は資料を配り始めた。

しん、と静まり返る会議室。

紙をめくる音だけが響く。

朝比奈絵里奈の笑顔が、少しだけ固まった。

「蓮司が勝手にしたことです。私は何も」

「本当に?」

太陽が静かに言った。

仕事用の「僕」ではなく、私の前と同じ「俺」の声だった。

朝比奈絵里奈の視線が太陽へ向く。

その目に、一瞬だけ素の熱が宿った。

「太陽さん、私はただ、あなたの作品を支えたかっただけです」

「俺の作品を利用して、俺に近づきたかったんじゃないですか」

絵里奈の唇がかすかに震えた。

「そんな言い方」

「橘さんのメッセージにあります。『あの方を太陽さんの隣へ』。あの方って、あなたのことですよね」

その瞬間、橘の顔が変わった。

「絵里奈様を侮辱するな」
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