恋から逃げるのには理由(わけ)があって
舞台挨拶の終盤、司会者がマイクを向けた。

「大空さんにとって、この王子役は特別な意味があると伺っています」

会場が静かになる。

太陽は少しだけ客席を見渡した。
そして、私のほうを見た。

「はい。僕には、子どもの頃から続いている約束があります」

約束。

その一言で、胸が熱くなる。

「大切な人に、王子様みたいになって迎えに来てほしいと言われました。最初は子どもの冗談だったと思います。でも、その人は、僕が生きることを諦めかけた時に『生きて』と言ってくれた人でもあります」

劇場の空気が、ふっと変わった。

「その言葉があったから、僕はここまで来ました。王子様になることは、役のためだけではなく、僕にとって生きる目印でした」

私は膝の上で手を握った。

泣くな。
でも、目の奥が熱かった。

太陽はマイクを持ち直した。

「今日は、その約束をくれた人に、きちんと想いを伝えたいです」

心臓が止まるかと思った。

太陽が、客席の私をまっすぐ見た。

「向日葵。来てくれる?」

会場がざわめいた。

隣で新庄が静かに立ち上がり、私へ通路を示した。
どうやら全部、段取り済みらしい。
私だけが知らなかった。

王子様、演出が豪快すぎる。
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