恋から逃げるのには理由(わけ)があって
足が震えた。

一度目の人生で、私は隠れていた。
太陽の妻なのに、外ではただの他人みたいにしていた。
それが必要なことだと思っていた。

でも、もう同じ場所には戻らない。

私は立ち上がった。

カメラのレンズがこちらを向く。
客席の視線が集まる。
胃が裏返りそうになる。

それでも、私は歩いた。

太陽はステージの端で待っていた。
手を差し出していたけれど、私が自分で上がるまで引っぱらなかった。

最後の一段を上がり、私はその手を取った。

あたたかい。
血の匂いはしない。
冷えていない。

生きている手だった。
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