恋から逃げるのには理由(わけ)があって
――それからの日々は、騒がしくて、忙しくて、少しだけくすぐったかった。

太陽の事務所は正式に婚約を発表し、世間はしばらく大騒ぎした。
もちろん、いろんな声があった。
驚きも、祝福も、詮索も。

でも太陽は、まっすぐだった。

「彼女は一般の人です。生活を守りたいので、過度な取材は控えてください」

記者会見でそう言った時の太陽は、王子様というより、一人の男だった。
私を隠すためではなく、私を隣に置いたまま守るために言葉を選んでくれた。

私はその映像を自宅で見ながら、泣きそうになった。

そして直後、太陽からLINEが来た。

『ちゃんと食べてる?』

世界に向けて婚約者を守る声明を出した直後の一言が、それである。

私は笑いながら返信した。

『食べてます。冷凍うどん』

すぐに既読がついた。

『おいしそう』

『頼まれてもあげないよ』

『よく頑張ってる』

画面を見つめて、胸があたたかくなる。

もう、彼の隣から逃げたいとは思わなかった。
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