恋から逃げるのには理由(わけ)があって
夜、食器を片づけたあと、太陽がソファで私の手を取った。

「向日葵」

「はい」

「今、幸せ?」

まっすぐな問いだった。

私は少し考えた。

橘蓮司のことが全部消えたわけではない。
一度目の記憶も、完全に痛くなくなったわけではない。
ふいに雨上がりの路地を思い出して、手が冷たくなる日もある。

でも、そのたびに太陽がいる。
私は怖いと言える。
太陽は一人で前に出ない。
二人で確認して、二人で息をする。

だから私は、答えられた。

「幸せ」

太陽の目が、やわらかくほどける。

「やっと?」

「やっと」

私は笑った。

「やっと手に入れた幸せ。だから、取り扱い注意でお願いします」

「大事にする」

「あと、過保護禁止」

「努力する」

「そこは約束して」

「……約束する」

間があった。
信用の薄い約束である。

私は笑って、彼の肩に頭を預けた。
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