恋から逃げるのには理由(わけ)があって
私は雑炊を食べながら、視線を器に落とした。
見てはいけない。
見たら、思い出す。

食卓の向こうにいた太陽。
撮影で疲れているのに、私の分まで皿を洗ってくれた太陽。
眠そうにしながら「明日も生きような」と冗談みたいに言った太陽。

そして、その日常が突然終わったこと。

「向日葵?」

はっと顔を上げると、太陽がこちらを見ていた。

「また、泣きそうな顔してる」

「してません」

「うん。じゃあ、そういうことにする」

追及しない。
踏み込まない。
けれど、見逃してもいない。

そういうところまで、同じだ。

私はレンゲを置いた。

「今日だけですから」

「うん」

「あなたの部屋でご飯を食べるとか、手料理を食べるとか、そういうの」

「わかった」

「わかってない顔です」

「今日だけって言われたから、今日を大事にしてる」

太陽は静かに笑った。

「向日葵が食べてくれて、俺は嬉しい」

胸の奥に、やわらかくて重いものが落ちた。

好きだった。
一度目の私は、この人のこういうところが、どうしようもなく好きだった。

強くて、まぶしくて、遠い世界の人で、外では誰もが見上げる「太陽」なのに、家の中では驚くほど静かで優しい。

食べ終わると、太陽は余った雑炊を小さな保存容器に入れた。

「明日の朝、温めて」

「餌付け禁止です」

「食事」

「言い換えても罪状は変わりません」

「持って帰らないなら、俺が今夜食べる」

「……それはそれで困ります」

「じゃあ、持って帰って」

結局、私は受け取ってしまった。
容器はまだ少し温かかった。
< 24 / 179 >

この作品をシェア

pagetop