恋から逃げるのには理由(わけ)があって
――私は保存容器を抱え、エレベーターに乗った。

扉が閉まる直前、太陽が言った。

「ちゃんと食べて。生きて」

胸が止まりそうになった。

扉が閉まる。
彼の顔が見えなくなる。

私は容器を抱えたまま、息を吐いた。

シャツ一枚でキッチンに立つ背中。
しょうがの匂い。
少しだけ嬉しそうな「よかった」。
距離を取っているのに、生活の中へ静かに入り込んでくる気配。

こういう日常のほうが危険なのだ。

だって、あなたとの結婚生活もこんな感じだったから。
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