恋から逃げるのには理由(わけ)があって
動画のサムネイルで、太陽は白と金の衣装を着ていた。
初めて私の部屋の前に現れた、あの王子姿。
撮影用の衣装だと言っていた。たしかに、画面の中の彼は豪奢な宮殿セットの前に立っている。長いマント。肩の刺繍。磨かれたブーツ。作りもののはずなのに、彼が着ると妙に本物めいて見えた。

インタビュアーが、明るい声で尋ねる。

『太陽さんはこれまで、ヒーロー役から悪役まで幅広い役柄を演じてこられましたが、今回は初めての王子様役ということですね。キービジュアルが公開されると、世界中で“理想の王子様”だと大きな話題になりました。今回、王子役を演じるうえで特にこだわったことはありますか?』

動画の中の太陽は、少しだけ考えてから笑った。

『あります』

短い答えだった。
それだけで、背筋がぞわりとした。

『小さい頃、大切な人に、好きな男の人は王子様だと言われたんです』

息が止まった。

『本物の王子様にはなれないので。だったら、王子様だと信じてもらえる役者になろうと思いました』

画面の中の彼は穏やかに笑っていた。
世界中がその笑顔を見て、ロマンチックだとため息をつくのだろう。

でも、私は知っている。
その言葉が、どこから来たのかを。
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