恋から逃げるのには理由(わけ)があって
「太陽くん、向日葵便でーす」

声が裏返らなかったことを、当時の私はひそかに誇った。

病室のベッドで、太陽は横になっていた。
カーテンの隙間から差す昼の光が、白いシーツの上で薄く揺れている。太陽の顔は前より少し細くて、腕には点滴の管がつながっていた。

それでも、私を見ると目元がふわっとやわらかくなった。

「向日葵」

その声を聞いた瞬間、胸が痛くなった。

「今日はね、すごいよ。漫画の続きと、折り紙と、プリン。病院内売店セレクト、三種の神器です」

「三種の神器」

「あとでありがたく拝むように」

「うん。拝む」

太陽は小さく笑った。
その笑い方が弱くて、私はますます明るくしゃべった。プリンの値段が高かったとか、折り紙の金色だけなぜか少ないとか、学校で先生がチョークを落として粉だらけになったとか。

くだらない話をしていれば、死ぬなんて言葉は病室に入ってこない気がした。
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