恋から逃げるのには理由(わけ)があって
私が話し疲れて椅子に座ったころ、太陽がふいに天井を見た。

「向日葵」

「なに?」

「どんな男の人が好き?」

「……はい?」

病室で突然の恋バナ。
入院中の小学生男子、話題選びが攻めすぎである。

私は目をぱちぱちさせた。
太陽は、ベッドに横になったまま、真面目な顔でこちらを見ていた。

「好きな人とか、いる?」

「い、いないけど」

「じゃあ、どんな人が好き?」

どうして今それを聞くの。
そう思った。
でも聞けなかった。
太陽の目が、あまりにも真剣だったから。

私はわざと腕を組んで、偉そうにうなずいた。

「王子様」

「王子様?」

「そう。白馬に乗ってて、お城に住んでて、キラキラしてる人。私のことをものすご~く好きでいてくれて、大人になったら迎えに来てくれるの。あと、たぶん顔がいい」

「顔」

「大事です」

冗談のつもりだった。
病室の空気を軽くしたかった。太陽を笑わせたかった。王子様なんて、身近にいないものを言えば、遠い未来の話をしているみたいで安心できると思った。
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