恋から逃げるのには理由(わけ)があって
それは、子どもの約束だった。

でも、俺には命綱だった。

あの瞬間から、俺の世界には目印ができた。

春まで生きる。
退院する。
歩けるようになる。
学校に戻る。
背を伸ばす。
強くなる。
王子様になる。

治療が苦しくて、何度も逃げたくなった。
薬の副作用で食べられない日も、体が思うように動かない日も、リハビリで情けなくて泣いた日もあった。

そのたびに、俺は思い出した。

生きてよ。
私のために。

それは呪いだったのかもしれない。
祈りだったのかもしれない。
たぶん、どちらでもあった。

でも、その言葉がなかったら、俺はあの病室の白い天井の下で、自分の未来を手放していた。

その言葉で、俺は生きてこれた。
子どもの約束だった。向日葵は、俺を励まそうとしてくれただけだとわかっている。
でも、その約束を忘れたら、生きている自分まで嘘になる気がした。

向日葵は、俺を生かした。生きる理由をくれた。

俺が彼女を好きなのは、約束をしたからだけじゃない。
泣きながら怒ってくれたから。俺が消えることを、嫌だって言ってくれたから。死にたいって言った俺に、生きてって言ってくれたから。

俺は、あの時初めて、自分がいなくなることを本気で悲しむ人がいるって信じられた。
だから、好きになった。ずっと好きだった。

あの日を境に、俺の病状は日に日に悪くなり、面会も許されなくなった――あの約束の日が、俺が彼女に会えた最後の日だった。でも、俺はあの日をずっと忘れられなかった。
< 47 / 179 >

この作品をシェア

pagetop