恋から逃げるのには理由(わけ)があって
あの約束のあと、結局、太陽は一度も小学校の教室に戻ってこなかった。

進級後の教室でも、彼の席だけがずっと空いていた。卒業式の日も、太陽の椅子は空だった。
体育館のパイプ椅子。校長先生の長い話。泣いている女子。やたら大きく聞こえるピアノの音。
私は卒業証書を受け取りながら、体育館の後ろの扉を何度も見た。開かない扉を見て、もしかしたら来るかもしれないと思っていた。

来なかった。

卒業式から数日後、母が言った。

「太陽くん、退院できたんだって」

私は飛び上がるくらい喜んだ。

でも、その続きで、喜びは行き場を失った。

「ご両親のお仕事の転勤で、アメリカに行くことになったみたい。治療のあとも向こうで様子を見るんだって」

退院した。

生きていた。

それなのに、会えなかった。

子どもの私には、アメリカは月より少し近いくらいの場所だった。メールアドレスも、スマホも、国際電話のかけ方も知らない。新しい住所もわからなかった。

そのまま、中学になって、高校になって、大人になった。
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