恋から逃げるのには理由(わけ)があって
連絡は取れなかった。

会えなかった。

だから、15年ぶりに王子姿で玄関の前に現れた彼は、意味不明な不審者であると同時に、あまりにも律儀な約束の回収人でもあった。

「……重い」

私は声に出した。

愛が重い。宅配便なら追加料金が発生するレベルだ。

なのに、その重さが胸の奥で痛い。

迷惑だ。

そうだ。迷惑だ。

世界的俳優が近所に引っ越してきて、雑炊を作って、荷物を持って、15年前の冗談を世界配信で人生目標みたいに語る。どこからどう見ても迷惑案件である。消費者センターに相談したら、担当者が途中で頭を抱えると思う。

けれど、私は知っている。

あの子が、病室で「死にたい」と言ったことを。
その子が生き延びて、海を越えて、知らない場所で努力して、本当に王子様みたいな俳優になって帰ってきたことを。

私は、右手を伸ばして伏せたスマホをもう一度見た。

画面は暗い。

そこに自分の顔が映っていた。
困った顔。泣きそうな顔。逃げたい顔。
そして、ほんの少しだけ嬉しそうな顔。

「最悪」

私はスマホをクッションの下に押し込んだ。

物理的封印である。現代人の心の乱れは、だいたいスマホのせいだ。異論は認めるが今は認めない。
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