恋から逃げるのには理由(わけ)があって
ドアの隙間から顔を出すと、佐伯が目を丸くしてこちらを見た。
その横で、太陽が少しほっとしたように私を見る。

その顔をしないで。
助けたわけじゃない。炎上を避けただけ。自分の生活を守っただけ。

「まあ、向日葵ちゃんのお知り合い?」

「はい。ええと、昔の……近所の」

「そうなの。ならいいけど、声が響くからね」

「すみません。本当にすみません」

私は頭を下げた。
太陽も、完璧な角度で頭を下げた。王子がアパートの廊下でお辞儀している。絵面が強い。強すぎて胃が痛い。
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