恋から逃げるのには理由(わけ)があって
スーパーに着くと、私は自分でも驚くほど迷わなかった。
米。鮭の切り身。スポーツドリンク。冷却シート。のど飴。
そして、みかんゼリー。

手に取った瞬間、胸の奥がきゅっと痛んだ。

一度目の人生で、太陽が風邪を引いた時、必ずこれを欲しがった。
仕事で雨に打たれて帰ってきて、玄関で「情けない」と笑って、熱で少し潤んだ目で私を見た。

『鮭のおかゆと、みかんゼリーがいい』

その時の声が、耳の奥でよみがえる。
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