恋から逃げるのには理由(わけ)があって
前の人生の夜。
雨の音。
同じように熱を出した太陽が、ベッドの上で弱く笑っていた。

『向日葵のおかゆ、世界一』

『世界的俳優の世界一、重いんだけど』

『本当だから』

あの時、私は笑っていた。
彼の額に冷却シートを貼り、みかんゼリーのふたを開け、明日の朝には下がるよと何度も言った。
彼は私の手を握って、「向日葵がいると、風邪まで静かになる」と言った。

その日常が、幸せだった。

どうしようもなく、幸せだった。
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