恋から逃げるのには理由(わけ)があって
「向日葵?」

今の太陽の声で、私は戻ってきた。

私は器をトレーに乗せ、みかんゼリーとスプーンを添えた。何でもない顔を作るのに、少しだけ時間がかかった。

「食べられるだけでいいです」

「ありがとう」

太陽はソファの前のローテーブルに置かれた器を見つめた。
それから、驚いたように私を見た。

「鮭かゆ」

「胃に優しいので」

「みかんゼリーも」

「水分補給です」

太陽はスプーンを手に取り、一口食べた。
熱で赤い目が、少しだけやわらかくなる。

「おいしい」

その声があまりにも素直で、胸の奥が痛んだ。

「病人の味覚は信用できません」

「信用して。おいしい」

「はいはい。食べられるなら食べてください」

太陽はゆっくり食べた。
いつもの彼なら、食事の動きまで絵になるのに、今日は少しだけ手元が頼りない。私は手を出しそうになる自分を、エコバッグを畳むことで抑えた。
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