恋から逃げるのには理由(わけ)があって
――二日後。

太陽の熱は下がった。

正確には、LINEで毎朝送りつけられてきた体温報告により、三十八度五分から三十六度八分まで順調に下がったことを私は把握していた。
なぜ私は世界的俳優の体温推移を管理しているのだろう。医療アプリか。

そしてその日の夕方、仕事終わりの駅前で、私はスマホを見て固まった。

『看病のお礼がしたい。外で少しだけ会えない?』

外で。

ここが重要だった。
彼の部屋ではない。私の部屋でもない。つまり密室ではない。
さらに続けて届いた文面が、こちらの逃げ道を丁寧に舗装してくる。

『人が多くも少なくもない場所にする。目立たない格好をする。車は使わない。嫌なら帰っていい。結婚の話もしない』

「……先回りが上達している」

私は駅前の柱にもたれ、小さくうなった。

断ればいい。
断るべきだ。
だが、看病した側としては、お礼を完全拒否するのも不自然である。人道支援にもアフターケアというものがある。たぶんない。

結局、私は条件を送った。

『三十分だけ。近づきすぎ禁止。高いもの禁止。撮られそうな場所禁止』

すぐに既読がついた。

『わかった。駅の西口にいる』

早い。
送信から返信までの速度が、ほぼ反射神経である。
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