恋から逃げるのには理由(わけ)があって
太陽が連れていったのは、駅から少し離れた川沿いの遊歩道だった。
途中の小さなテイクアウト専門店で、彼はレモネードを二つ買った。店員さんへの声のかけ方も、受け取る手つきも自然で、目立たないようにしているのに品があって、ハイスペックが漏れている。
川沿いは、人が少なかった。
昼間は暖かかったのに、日が落ちると風が冷える。
私は薄手のコートの前を合わせ、紙カップを両手で包んだ。
「寒い?」
「平気です」
言った直後、風が吹いた。
肩が勝手に小さく震える。
しまった、身体。そこは根性で耐えて。
太陽は何も言わなかった。
ただ、隣にいた気配がふっと動いたと思ったら、次の瞬間、私の肩に重みが落ちた。
濃いグレーのジャケット。
まだ彼の体温が残っている。
ふわりと清潔な布の匂いと、少しだけ彼の匂いがした。
無言だった。
それが、余計に困った。
「寒いだろ」とか「俺のを着て」とか、決め台詞めいたことを言われたら、こちらも「王子様営業お疲れ様です」と返せたのに。
何も言わず、ただ寒そうだからかける。
そのさりげなさが、いちばん心臓に悪い。
上着をかけられたら、即ときめく女だと思った?
残念でした。私はそんな単純な女ではない。
ただし、心拍数は上がった。
そこは人体の仕様であり、私の責任ではない。
途中の小さなテイクアウト専門店で、彼はレモネードを二つ買った。店員さんへの声のかけ方も、受け取る手つきも自然で、目立たないようにしているのに品があって、ハイスペックが漏れている。
川沿いは、人が少なかった。
昼間は暖かかったのに、日が落ちると風が冷える。
私は薄手のコートの前を合わせ、紙カップを両手で包んだ。
「寒い?」
「平気です」
言った直後、風が吹いた。
肩が勝手に小さく震える。
しまった、身体。そこは根性で耐えて。
太陽は何も言わなかった。
ただ、隣にいた気配がふっと動いたと思ったら、次の瞬間、私の肩に重みが落ちた。
濃いグレーのジャケット。
まだ彼の体温が残っている。
ふわりと清潔な布の匂いと、少しだけ彼の匂いがした。
無言だった。
それが、余計に困った。
「寒いだろ」とか「俺のを着て」とか、決め台詞めいたことを言われたら、こちらも「王子様営業お疲れ様です」と返せたのに。
何も言わず、ただ寒そうだからかける。
そのさりげなさが、いちばん心臓に悪い。
上着をかけられたら、即ときめく女だと思った?
残念でした。私はそんな単純な女ではない。
ただし、心拍数は上がった。
そこは人体の仕様であり、私の責任ではない。