恋から逃げるのには理由(わけ)があって
――帰り道、彼は私の三歩後ろを歩いた。
本当に三歩。
近づきすぎず、離れすぎず、私が振り返ればそこにいる距離。
その優しさまで、もう泣きたいくらい腹立たしかった。
アパートの前で、太陽は足を止めた。
「今日は、ごめん」
「……私こそ、言いすぎました」
「向日葵」
私は顔を上げられなかった。
「隠してることを、無理に聞くつもりはない。でも、怖いなら、一人で抱えなくていい」
それができたら、私はきっとこんなに逃げていない。
「おやすみなさい」
私はそれだけ言って、アパートに入った。
鍵を開ける。
部屋に入る。
鍵をかける。
チェーンをかける。
ドアにもたれた瞬間、体から力が抜けた。
頭に残っている。
あの手の感触が。
肩に残っている。
ジャケットの体温が。
耳に残っている。
よく頑張ってる、という声が。
嬉しかった。
認めたくない。
でも、嬉しかった。
普通の会社で普通に働く私を、太陽がちゃんと見てくれたこと。
寒そうだと気づいて、何も言わずに上着をかけてくれたこと。
頑張ってる、と言ってくれたこと。
全部、嬉しかった。
だから、だめなのだ。
私はドアに背中を預けたまま、目を閉じた。
太陽は気づき始めている。
私がただ彼を拒んでいるわけではないこと。
私が、今の彼が知らない何かを抱えていること。
それでも言えない。
言ってはいけない。
一度目の人生で、あなたは私を庇って死んだ。
だから私は、二度目の人生ではあなたを好きになってはいけない。
太陽に何を疑われても、私はこの恋から逃げる。
逃げきって、今度こそあなたを生かしてみせる。
本当に三歩。
近づきすぎず、離れすぎず、私が振り返ればそこにいる距離。
その優しさまで、もう泣きたいくらい腹立たしかった。
アパートの前で、太陽は足を止めた。
「今日は、ごめん」
「……私こそ、言いすぎました」
「向日葵」
私は顔を上げられなかった。
「隠してることを、無理に聞くつもりはない。でも、怖いなら、一人で抱えなくていい」
それができたら、私はきっとこんなに逃げていない。
「おやすみなさい」
私はそれだけ言って、アパートに入った。
鍵を開ける。
部屋に入る。
鍵をかける。
チェーンをかける。
ドアにもたれた瞬間、体から力が抜けた。
頭に残っている。
あの手の感触が。
肩に残っている。
ジャケットの体温が。
耳に残っている。
よく頑張ってる、という声が。
嬉しかった。
認めたくない。
でも、嬉しかった。
普通の会社で普通に働く私を、太陽がちゃんと見てくれたこと。
寒そうだと気づいて、何も言わずに上着をかけてくれたこと。
頑張ってる、と言ってくれたこと。
全部、嬉しかった。
だから、だめなのだ。
私はドアに背中を預けたまま、目を閉じた。
太陽は気づき始めている。
私がただ彼を拒んでいるわけではないこと。
私が、今の彼が知らない何かを抱えていること。
それでも言えない。
言ってはいけない。
一度目の人生で、あなたは私を庇って死んだ。
だから私は、二度目の人生ではあなたを好きになってはいけない。
太陽に何を疑われても、私はこの恋から逃げる。
逃げきって、今度こそあなたを生かしてみせる。