恋から逃げるのには理由(わけ)があって
「向日葵」

耳元で名前を呼ばれる。

「迎えに来るの、遅くなってごめん」

私は首を振った。

「遅くないよ」

「本当に?」

「うん。ちゃんと来たから」

太陽の腕に、少しだけ力がこもった。

私はその胸に額を預けながら、思った。

幸せだ。

あまりにも突然で、あまりにも現実離れしていて、常識的には問題だらけで、どう説明すればいいのかまったくわからない。

でも、幸せだった。

太陽が生きている。
私を覚えている。
私を好きだと言ってくれる。

こんなにまぶしいものが、自分の人生に落ちてくることがあるなんて、知らなかった。

「ねえ、太陽くん」

「うん」

「冷やし中華、食べる?」

太陽が少しだけ体を離し、私を見た。

「今?」

「うん。婚約記念ディナーとしては、だいぶ庶民的だけど」

「食べる」

「即答だね」

「向日葵となら、何でもいい」

さらっと言うな。
心臓に悪い。
婚約直後の心臓は、もっと労わってほしい。
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