恋から逃げるのには理由(わけ)があって
私は照れ隠しに立ち上がり、冷やし中華をテーブルの真ん中へ置いた。
一人分しかないので、皿に分ける。
半額シールつきの冷やし中華を、王子姿の世界的俳優と分け合う夜。

人生でいちばん奇妙で、いちばん幸せな食卓だった。

「割り箸、ひとつしかない」

「俺、洗える箸でいいよ」

「うちの箸、柄が揃ってないけど」

「それもいい」

「何でもいいって言えばいいと思ってる?」

「思ってる」

「正直でよろしい」

二人で笑った。

笑いながら、私は思った。

きっと大丈夫だ。

この人となら、きっと楽しい。
知らない世界も、怖いことも、面倒なことも、たくさんあるかもしれない。
でも、太陽が隣にいるなら、私はたぶん笑っていられる。

半分に分けた冷やし中華を、太陽は本当においしそうに食べた。

「うまい」

「半額だけどね」

「向日葵と食べてるから」

「そういう王子様発言、食事中に投下するの禁止」

「結婚したら、もっと言う」

「結婚したら心臓が鍛えられるかもしれない」

「じゃあ、毎日言う」

「トレーニングメニューが重い」

太陽は笑った。
私も笑った。

涙が出そうなくらい、笑った。
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