恋から逃げるのには理由(わけ)があって

第12話 向日葵の1回目の人生②(新婚生活)

その夜、私たちは半額シールつきの冷やし中華を分け合いながら、人生でいちばん現実味のない婚約者同士になった。

王子姿の世界的俳優が、柄が揃っていない箸で冷やし中華を食べている。
しかも、その男は私の婚約者である。
情報量が多すぎる。脳内の処理係が全員残業を拒否して帰った。

「向日葵」

「何?」

「本当に、後悔してない?」

太陽は、冷やし中華のきゅうりを食べながら聞いた。
その真剣な顔と、手元の半額冷やし中華の落差がすごい。

「後悔はしてないよ。ただ、理解はまだ追いついてない」

「そっか」

「だって、ついさっきまで私は独身の会社員だったのに、今は世界的俳優の婚約者で、しかも相手は王子の衣装を着ている」

「着替えたほうがいい?」

「この部屋に替えの王子衣装はありません」

太陽は小さく笑った。

その笑い方があまりにも嬉しそうで、私はまた胸の奥をつかまれたみたいになった。
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