恋から逃げるのには理由(わけ)があって
けれど、彼はすぐに表情を引き締めた。

「向日葵に、ちゃんと話しておきたいことがある」

「何?」

「結婚のこと。すぐには公表できない」

私は箸を止めた。

太陽は、まっすぐ私を見た。

「もう少しで公開される映画がある。大きな作品で、俺は主役で、初めて王子様役をやってる。海外も含めて公開される予定で、宣伝もかなりたくさん組まれてる」

「うん」

「事務所と制作側からは、その映画の公開後までは、結婚の発表を待ってほしいって言われてる」

王子様役の公開前に、王子様が本当は結婚していました。

たしかに、宣伝担当者の胃に穴が開きそうな案件である。

「だから、しばらくは秘密になる。向日葵に、隠れるみたいな生活をさせるかもしれない」

「……太陽くんは、それでいいの?」

「よくはない」

即答だった。

「本当は、すぐ言いたい。世界中に、向日葵が俺の妻になる人だって言いたい。でも、それをすると、向日葵がいきなり注目される。守る準備もできないまま、名前も顔も生活も見られることになる」

太陽の声は静かだった。

けれど、そこに浮かぶ現実の重さは、私の部屋の安い蛍光灯ではごまかせないものだった。

「俺は、それが怖い」

世界の真ん中で光っている人が、私の平凡な生活を守れるか心配してくれている。
そのことが、じんと胸にしみた。
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