恋から逃げるのには理由(わけ)があって
――その数日後。

私たちは婚姻届を出した。
豪華な式も、フラッシュを浴びる会見も、白馬もマントもなかった。
あったのは、時間外窓口の硬い照明と、妙に事務的な受付の人と、私の手汗で少ししっとりした婚姻届だけである。

「これで、夫婦?」

役所を出たあと、私は夜風の中で聞いた。

太陽は私の左手をそっと握った。

「うん。夫婦」

夫婦。

たった二文字なのに、体の中で何度も反響した。

「大空向日葵……」

試しに声に出してみた瞬間、顔が熱くなった。

「やっぱり声に出すと破壊力がある」

「俺は好き」

「あなたは何でも好きって言いそう」

「向日葵に関することなら、だいたい好き」

「新婚初日から心臓に負荷をかけないで」

太陽は笑って、つないだ手を少しだけ強く握った。
その手があたたかくて、私は、ああ本当にこの人と家に帰るのだと思った。
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