恋から逃げるのには理由(わけ)があって

第13話 向日葵の1回目の人生③(誹謗中傷)

不穏は、玄関の鍵を壊して入ってきたわけではなかった。

最初は、いつもの朝だった。
太陽は映画のPRイベントのために夜明け前に家を出ていて、ダイニングテーブルには、彼が私のために残したメモだけがあった。

『牛乳、冷蔵庫の奥。転ばないように気をつけること』

夫から妻への連絡として、後半が小学生向けの言葉かけなのはどうなのか。
そう思いながらも、私は少し笑ってしまった。

指輪は外す。
会社では旧姓の「風早」のまま。
誰にも言えない結婚生活は、面倒で、少し寂しくて、それでも家に帰れば太陽がいるという事実だけで、毎日が信じられないくらいあたたかかった。

だから、その朝も私は普通に家を出た。
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