姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
あまりにも、美しかった。

「……君がリシェルか」

低く、抑えた声。

私ははっとして、慌てて頭を下げる。

「は、はい。リシェル・アルノーと申します」

心臓がうるさいほど鳴っている。

「至らぬ点も多いかと存じますが……あくまで粗相のないよう努めます。どうぞ、よろしくお願い致します」

なんとか言葉を絞り出す。

けれど、顔を上げることができなかった。

視線を合わせてしまえば、この胸の高鳴りを悟られてしまいそうで。

「……そうか」

返ってきたのは、それだけだった。

短く、感情のない声。

ゆっくりと顔を上げると、彼はすでに私から視線を外していた。

まるで、興味がないと言わんばかりに。

胸の奥が、ちくりと痛む。

「ルシアン殿下、どうぞお掛けください」

父王が、いつになく丁寧な声で言う。
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