姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
声は震えなかった。

「私は、大丈夫です」

それは、本心ではないと自分でも分かっている。

それでも、そう言うしかなかった。

兄は何か言おうとして――結局、言葉を飲み込んだ。

大広間に、重い沈黙が落ちる。

そしてその中で、私は静かに自分の運命を受け入れていった。

それから、数日が過ぎた。

王城の空気はどこか張りつめ、誰もが言葉を選ぶように過ごしている。

そしてついに――敵国の皇太子が、この国へとやって来た。

大広間に並ぶ中、私は胸の鼓動を必死に抑えていた。

やがて重い扉が開き、彼が姿を現す。

――敵国の皇太子、ルシアン・ヴァルディア。

その姿を見た瞬間、思考が止まった。

整った顔立ち、冷ややかな瞳。

無駄のない立ち居振る舞いは、まるで絵画の中の人物のようで――
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