姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
どれだけ距離があってもいい。

それでも私は、この人の隣に立つ。

静かに息を整えながら、私はそう心に誓った。

ルシアン殿下は、翌日にはあっさりと帰国してしまった。

滞在は、わずか一日。

まるで“婚約者としての顔合わせ”という役目だけを果たしたかのように、何の余韻も残さず。

大広間でのあの短い会話以外、言葉を交わすこともなかった。

残されたのは、静けさと――少しだけ、空っぽになったような感覚。

「……もう、お帰りになられたのですね」

思わず漏れた言葉に、自分でも驚く。

何を期待していたのだろう。

ほんの少しでも、言葉を交わせるかもしれないと。

ほんの少しでも、あの冷たい瞳が和らぐかもしれないと。

そんなことを、どこかで願っていたのかもしれない。

「はい。とてもお忙しいお方のようですから」
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