姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
背後で、侍女のアンが穏やかに答える。

私は鏡の前に座り、静かに目を伏せた。

アンは慣れた手つきで、私の髪をすくい上げ、丁寧に結い上げていく。

その手の温もりが、妙に現実を引き戻す。

「ルシアン殿下は……どのようなお方なのですか?」

気づけば、そんなことを口にしていた。

自分でも、なぜ聞いたのか分からない。

アンは少しだけ手を止めてから、言葉を選ぶように続ける。

「そうですね……あまり、人に心を開かない方だと聞いております」

「心を、開かない……」

「ええ。冷静で、常に理知的で……感情を表に出されることは、ほとんどないのだとか」

やはり、あの印象のままの人なのだ。

「それに――」

アンは少しだけ声を落とした。

「側には、長く仕えている女性がいらっしゃるそうです」

胸が、ぴくりと揺れる。
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