姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
「……女性、ですか?」

「はい。いわゆる……愛人、と呼ばれる方でしょうか」

その言葉が、静かに胸へ落ちてくる。

愛人。分かっていたはずなのに。

実際にその言葉として聞くと、胸の奥がきゅっと締めつけられる。

「殿下は、その方にだけは心を許していらっしゃるとか。どんなことでも話されると聞きます」

――その人だけに。思わず、指先に力が入る。

鏡に映る自分の表情が、わずかに歪んでいるのが見えた。

「……そう、なのですね」

なんとか声を整える。

アンは気づいていないのか、静かに髪を整えながら続けた。

「ですから、きっと……この婚姻も、殿下にとっては形式的なものかと」

形式。その一言が、すとんと胸に落ちた。

――やはり、そうなのだ。

私はただの“条件”。

和睦のために差し出された、代わりの花嫁。
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