姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
ほんのかすかな声。

誰にも聞こえないほどの。

けれど彼は、わずかに目を細めて――

「君がよければ」

それだけを返した。

やはり、そこに意味はない。

選ばれているわけでも、望まれているわけでもない。

それでも私は、この人の妻になる。

そう決めたのだから。

「……誓います」

言葉を口にした瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。

その時だった。ぽたり、と。

自分の目から、涙がこぼれ落ちた。

驚く間もなく、次々と零れていく。

どうして泣いているのか、自分でも分からない。

怖いからなのか。

それとも――ほんの少しだけ、期待してしまったからなのか。

ルシアン殿下は、何も言わない。

ただ静かに、私を見つめているだけ。

その距離が、どうしようもなく遠く感じられた。
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