姉の身代わりに敵国に嫁いだら皇太子に溺愛されました
祝福の鐘が鳴り響く。

けれどその音は、どこか遠くで鳴っているようにしか聞こえなかった。

私はただ、涙をこらえることもできずに――

この“形式だけの結婚”を、静かに受け入れていた。

披露宴は、華やかに始まった。

音楽が流れ、笑い声が広がり、豪奢な料理が並ぶ。

誰が見ても祝福に満ちた場――のはずだった。

けれど、その中心にいる私の周りだけが、ぽっかりと空いている。

ルシアン殿下の周囲には、自然と人が集まっていた。

同じ国の貴族たち、親しい友人たち。

気軽に言葉を交わし、笑みを浮かべるその姿は、どこか遠い世界のように見える。

一方で、私の周りには――誰もいなかった。

当然だ。ここは敵国。

好き好んで私を祝いに来る者など、いるはずがない。

グラスを持つ手に、ほんの少しだけ力がこもる。
< 19 / 60 >

この作品をシェア

pagetop